<メッセージ2>
 改めて安全について考える

 2011年3月11日に起こった東日本大地震に伴う津波で福島第一原発が制御不能になった事故は、改めて安全について考えさせられるものでした。この事故の後、原発は安全ではないという認識が広まり、各地の原発の稼働停止や脱原発が叫ばれるようになったのはご承知のとおりです。
 「安全」というのが事物に付帯する性質であると考えるなら、3月10日と11日の間で原発の性能は変わっていないのですから、支障なく稼働していた3月10日までの間においても原発は安全でなかったということになります。ただリスクが顕在化していなかったに過ぎません。この事故は、リスク事象が発現していない状態を安全であると誤認することの誤りを見せつけてくれました。私は、リスクが発生せずとりたてて危険ではない状態を、"非危険"と呼んで安全と区別しています。

 多くのスポーツが他の競技者と力比べをするのに対して、アウトドア活動は自然との力比べを楽しむスポーツであると言えるでしょう。自ら好んで不条理な自然の中に身を置こうというわけですから、安全な原発が存在しないことよりも遙かに確実に、安全なアウトドア活動は存在しないと断言できます。だからこそ、リスクに対応する高度な知識・技術・判断力が求められるのです。
 あなたはすでに何度もアウトドア活動を経験しているかもしれません。それらのほとんどは無事に終了しています。無事に終了したことをもって「良かった」と思ってはいませんか。3月11日を知った私たちは、単にリスク事象が発現しないままプログラムを終えたことを喜ぶのではなく、どのようなリスクに対してどの程度に対応できたであろうかと冷静に振り返ってみなければなりません。相撲でたとえるなら、力士は負けた時だけでなく勝った時でも、取り口を振り返って反省点を見出し翌日の稽古に活かしているはずです。アウトドア活動においても、このような振り返りを繰り返すことが私たちのリスク対応能力を高める方途となるのです。

 静かな夜明けです。人里を遠く離れた山間に抱かれた湖でたくさんの水鳥が眠っています。水鳥たちに差し迫ったリスクがあるわけではありませんが、彼らは自分たちが安全でないことをよく知っています。だからどうしているか。水鳥の群れの中の1羽は眠らずに起きています。あたりを注意深くうかがい、もし異変があれば大声を出して警告し、必要ならば真っ先に飛び立って仲間を誘導します。リスクに目覚めている1羽がいるからこそ、そしてこの1羽が高いリスク対応能力を持っているからこそ、この群れはリスクを乗り越えて生き延びることができるのですね。
  あなたがこの1羽になってください。

※本稿は、京都YMCA少年リーダートレーニングでの講話を再録したものです。
 









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